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お気に入りのポイント 泉質・にごり湯・個性・泡付き
温泉紹介
北海道の登別市。温泉で有名な山の中にある温泉街ではなく、JR登別駅の南側海岸線に沿ったフンベ山が存在している。登別漁港の南西に位置する低い山だが、その中腹が台地となっており、太平洋の荒波が絶えず押し寄せて険しい断崖となっている。
その崩れゆく台地にポツンと簡素な小屋が建っている。
それが知る人ぞ知るフンベの湯だ。
従来はもっと広い台地であったのだが、年々波で岩が削られ、着実に台地の面積を減らしている土地にその温泉は存在しているのだ。
地元の有志の方たちが海岸線の海の中の源泉を引き込み、小屋を建てて維持している非公認の温泉なのだ。
危険地帯ということで、本来は立ち入り禁止としている場所なのだが、黙認で自己責任ということになっているそうだ。
それだけでも非常に珍しい存在なのだが、崖が削られ続けているので、湯小屋を移設する必要が出て、何度かフンベ山寄りに移動しているというのが非常に異彩を放っている。
アプローチ
筆者はJR登別駅に荷物を預け、そこから徒歩でこの地を目指した。
フンベ山は、JR登別駅の南側にあるので見た目は近いのだが、登別駅の出入り口は北側にしかないため、登別漁港方面に向かって一度東側に向かい、踏切を渡って登別漁港を望みながら登別港線という車道をフンベ山に沿って西側に進み、一カ所しかない入口まで約1.2㎞の道のりだ。
温泉への入口は、標識があるのですぐにわかった。ちょっとしてスペースがあり、数台の車が止められる。当日は先客の車が一台停車していた。そこからは山道のようになっていて、両側は草むらで、フンベ山を左手にして回り込むように海岸方面に進む。
するとすぐに視界が開け、大海原の絶景を見渡すことが出来る。
まずは右手の草むらが切れて視界が開け、高台にいるためにかなり遠くまで見渡すことができる。
右手の海岸には、砂浜が続いている。
見ていると温泉があるようには思えないのがユニークだ。
反対の左手を見ると、冬の木々の隙間から赤いトタン屋根の小屋が見えた。
これがあのフンベの湯か!とかなりテンションが上がり、つい足早になってしまった。
左手のフンベ山を見上げると、かなりの傾斜の絶壁なのがわかった。
岩の様子をみると、確かに脆そうだ。
この岩の現在はどうなっているのだろうか?
下の台地は削られて無くなっているとのことだが、痩せ細りながらも、この上部は残っているのかもしれない。
歩道は一度崖沿いまで行きつき、そこから左手に曲がっている。
ここから望む小屋とフンベ山、そして海の光景がまさにフンベの湯のイメージそのものだ。
めったにお目にかかれない荒涼とした風景なのだ。
強く心に残っている光景でもある。
印象的なビューポイントからは、画像のように少し下っている。
海沿いの断崖に落ちないよう、柵がびっしりと作られている。
これも年々内側に移設しているのであろう。道幅は想像以上に広かった。
かつては、車でここまで入ってこれたらしいのだが、海に転落した車がでたことで、車両は入ってこれなくなったらしい。
小屋に近づく程に、この小屋の渋さが伝わってくる。
この2008年3月時点の小屋は何代目なのであろうか?
先客の話では、この前の小屋は、もっと海側に存在しており、それをここまで移設したとのことだった。
なぜ海沿いに拘って小屋を建てているのかと思ったら、源泉湧出口がこの崖の下、この当時で既に海の中に存在しているからだ。
画像の中に配管が固定されているのがわかるが、こんなところから引湯しているのだ。
湯小屋における湯温は適温なのだが、源泉から遠ざかれば湯温が下がり、さらに鮮度も落ちてしまうため、なるべく源泉近くに小屋を建てているのだ。
湯に浸かってみて、その重要性が後でよくわかったものだ。絶妙な湯温を保っており、それゆえに泡付きの新鮮な絶品湯を維持出来ていたのだ。
これが湯小屋だ。屋根だけでなく、外壁もトタン張りで、屋根の上の湯気抜きが湯小屋であることを主張している。
これは渋い!激渋だ。
湯小屋の内部
いよいよ小屋に入る。
思ったよりも広く、清潔に清掃されてすっきりした脱衣所が入ってすぐに広がり、その右手に浴室がある。
室内の壁には、協賛金の協力者の名前と金額などが記載されていたり、掃除道具が吊るされていたり、上部には絵画まで飾っていて独特な風情であった。
特に絵画は意表をついていて、まさかこのような湯小屋で絵画を飾るとは、精神的なゆとりを感じた。
木枠の浴槽
逸る気持ちを抑えながら服を脱ぎ、浴室に入ると、そこは筆者の大好きな木枠の浴槽であった。テンションは最高潮。
一人の先客に挨拶して、左手の湯貯めで体を清め、浴槽に浸かった。
長方形の木枠の浴槽は、想像以上にゆとりがあり、太い筒からは力強く湯が注がれている。
この筒は伸縮ができるようで、伸ばして浴槽横に設置された湯貯めに直接注ぐことを可能としており、湯が溜まったらまた浴槽に直接注ぐために短く設定する仕組みだ。
筒を伸ばした状態がこれだ。
湯貯めに溜まった湯は、今度は浴槽に注がれており、無駄なく湯を有効活用している。
窓の外は断崖の向こうに広がる大海原だ。
危険を知らせる看板が切実感を醸し出している。
この浴室は、木の床であり、浴槽自体が木で造られており、新鮮な湯がオーバーフローしているので、非常に温かいムードが漂っていて非常に素晴らしい。
泡付きのにごり湯
湯は、この通りやや緑色に濁った美しい湯だ。
そして何よりも新鮮なこの湯は、見事に泡が体に付きまくって気泡の感触が実に気持ち良い。
温度は40度程であろうか。
熱すぎず、ぬる過ぎない適温で、ゆっくりと浸かっていられる。
浴槽全体が柔らかな木製であるため、これまた気持ちがよく、文句のつけようのない極上体験であった。
評判の良さを聴いていたので、それなりに期待はしていたのだが、それをはるかに凌ぐ素晴らしい湯だった。
地元の有志の方たちが、この湯に拘ってきたのも頷ける。登別温泉とは全く違う泉質であることも大変ユニークだ。
この温泉は、実に独特なロケーションで、極めて極上の湯を体験出来る稀な施設であった。
それがもう二度と復活し得ないと思うと、残念でしょうがない。
自然によって生まれ、自然によって消えてゆく。
この湯とこの環境を体験出来ただけでも幸せ者だと心から思う。
かつて、この登別の地に、超個性的な温泉の至宝があったことを語り継いでいきたい。
最後に、画質は悪いが珍しく浴室内の動画を撮影してあったので、ここで紹介したい。
かつてあった温泉の至宝の雰囲気を少しでも味わって頂ければと思う。
温泉情報
泉質: 不明
源泉かけ流し:◎
住所:北海道登別市フンベ山
電話: なし
無料:協賛金箱あり
現在は既に閉鎖。この土地自体海に流されて消失しており、かつてはなかった砂浜と化している。
訪問時期:2008年3月
このフンベの湯は、2010年台前半には閉鎖となっている。
というよりも、海に削られ続けた特殊な海岸沿いの台地に位置していたため、ついに台地が削られて湯小屋自体が消滅してしまったのだ。
現在は見る影もなく、かつては無かった岩だらけの砂浜となっているようだ。
地元の有志の方たちによる極上の湯を湛えた湯小屋があったことを記録として残すべく、筆者の訪れた3回の入浴体験をそれぞれ投稿することにした。